古代ペルシャ(現在のイラン)で誕生したゾロアスター教において、火は単なる光や熱の源ではなく、神聖な純潔さを象徴する極めて重要な存在です。この信仰の中心となる礼拝所が「火の寺院」であり、ペルシャ語でアタシュカデ(Atash Kadeh)やアタシュガー(Atashgah)、あるいはダル・エ・メフル(Dar-e Mehr)と呼ばれます。
ゾロアスター教の儀式では、火とともに清浄な水が純潔を保つための不可欠な要素とされています。特に、儀式で用いられる白く清らかな灰は、信仰生活の基盤と見なされています。寺院で絶えず燃やされる聖火は、家庭の炉端にある火をより厳格で神聖な次元に高めたものであり、燃料を捧げて火を維持する行為は、幸福をもたらす徳高い行いであると信じられています。

Key Facts
- 世界的な分布: 世界に約177の火の寺院が存在し、そのうち約150がインドに集中している。
- 聖なる象徴: 火と水は儀式的な純潔を象徴する重要なエージェントである。
- 限定的な参拝: 多くの火の寺院(特にインドのパルシー寺院)では、非信者の立ち入りが制限されている。
- 歴史的背景: インドの寺院は、ペルシャから逃れた信徒(パルシー)によって維持・継承されてきた。
インドにおける主要な火の寺院
インドに定住したゾロアスター教徒(パルシー)は、独自の文化を維持しながら各地に礼拝所を建立しました。ここでは、歴史的・文化的に重要な寺院を紹介します。
イランシャー・アタシュ・ベフラム(ウドヴァダ)
グジャラート州ウドヴァダに位置するこの寺院は、インドで最も古く、かつ最も神聖な火を祀る場所の一つです。「アタシュ・ベフラム」とは「勝利の火」を意味し、8世紀まで遡る歴史を持ち、インドとイランの深い宗教的・文化的結びつきを象徴しています。現在の建物は1742年に建立され、世界中から巡礼者が訪れる聖地となっています。

バロート洞窟(ダハヌ近郊)
マハラシュトラ州にあるバロート洞窟は、インドで唯一の洞窟形式のゾロアスター教寺院です。もともとは仏教僧によって掘削された洞窟でしたが、1393年にムハンマド・ビン・トゥグルクの将軍アラフ・ハーンによる攻撃を受けた信徒たちが、13年間にわたり身を隠した場所として知られています。この期間中、聖なる「イランシャーの火」もここに運ばれました。現在はインド考古調査局(ASI)の保護下にある遺産となっています。

ムンバイの歴史的寺院(バナジ・リムジとマネッキジ・セス)
経済の中心地ムンバイには、歴史的なアギアリ(グジャラート語で「火の家」)が点在しています。1709年に実業家バナジ・リムジによって建立されたバナジ・リムジ・アギアリは、市内最古の寺院であり、要塞のような堅牢な構造が特徴です。また、1735年に建てられたマネッキジ・セス・アギアリは、ペルシャ様式とギリシャ復興様式が融合した建築美を誇り、入り口には守護獣ラマッスが配置されています。

その他の地域的な寺院
南インドや中央インドにも信仰の拠点はあります。テランガナ州セクンダラバードにあるパルシー火の寺院は1847年に建立され、ムンバイ以外で最大規模のパルシーコミュニティを支えています。また、タミル・ナードゥ州チェンナイにあるロイヤプラム火の寺院(ジャル・フィロズ・クラブワラ・ダル・エ・メフル)は1910年に寄贈されたもので、この地域唯一の寺院として、現在も司祭によって1日5回、聖火が絶やさず維持されています。

インドの主要火の寺院まとめ
| 寺院名 | 所在地 | 特徴・歴史的意義 |
|---|---|---|
| イランシャー・アタシュ・ベフラム | グジャラート州ウドヴァダ | インド最古の聖火を祀る、世界的な巡礼地 |
| バロート洞窟 | マハラシュトラ州ダハヌ近郊 | 唯一の洞窟寺院であり、歴史的な避難所でもあった |
| バナジ・リムジ・アギアリ | ムンバイ | 1709年建立。ムンバイで最も古い火の寺院 |
| マネッキジ・セス・アギアリ | ムンバイ | ペルシャとギリシャ復興様式の折衷建築 |
| パルシー火の寺院 | テランガナ州セクンダラバード | 1847年建立。南インドの主要な信仰拠点 |
| ロイヤプラム火の寺院 | タミル・ナードゥ州チェンナイ | 1910年建立。タミル・ナードゥ州唯一の寺院 |
Frequently Asked Questions
ゾロアスター教の寺院で「火」が重要視されるのはなぜですか?
火は神聖な純潔さの象徴であり、神への祈りを届ける媒介としての役割を持つためです。また、清浄な水とともに、儀式的な浄化に不可欠な要素とされています。
一般の観光客は火の寺院に入ることができますか?
いいえ、原則として多くのゾロアスター教寺院(特にインドのパルシー寺院)では、非信者の立ち入りは禁止されています。
「アギアリ」とはどういう意味ですか?
アギアリ(Agiary)はグジャラート語で「火の家」を意味し、ゾロアスター教の礼拝所を指します。
インドにこれほど多くの火の寺院があるのはなぜですか?
古代ペルシャから宗教的迫害などを逃れてインドへ移住したゾロアスター教徒(パルシー)が、自分たちの信仰と文化を維持するために各地に寺院を建立したためです。
バロート洞窟にはどのような歴史がありますか?
もともとは仏教寺院でしたが、14世紀末に侵攻を受けたパルシーの人々が約13年間にわたり避難場所として利用し、聖火を守り抜いた歴史的な場所です。
References
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