異なる言語が接触し、簡略化された共通言語である「ピジン」から、母語として定着した「クレオール言語」が生まれるプロセスは言語学的に非常に興味深い現象です。しかし、一度形成されたクレオール言語が、再び元の言語へと近づいていく現象があることが提唱されています。これがデクレオライゼーション(脱クレオール化)と呼ばれる概念です。
本記事では、この現象がどのように起こるのか、そしてなぜ一部の言語学者の間で激しい議論の対象となっているのかを詳しく解説します。
Key Facts
- 定義:クレオール言語が、その語彙の供給源となった言語(レキシファイア)に再び近づいていく過程のこと。
- 要因:レキシファイアが持つ高い「言語的威信(社会的地位)」が、クレオール言語への影響を強めることで発生する。
- 結果:進行すると、独立した言語ではなく、レキシファイアの「方言」に近い状態になると予測される。
- 論争:クレオール言語特有のプロセスであるという根拠が乏しく、一般的な言語接触による変化に過ぎないという批判がある。
デクレオライゼーションのメカニズム
デクレオライゼーションは、主にレキシファイア(クレオール言語に語彙を提供した元の言語)との継続的な接触によって引き起こされます。社会的に権威がある、あるいは高いステータスを持つ言語(威信言語)がレキシファイアである場合、その言語の構造や表現が再びクレオール言語に取り入れられる傾向があります。
言語学者ピーター・トラッドギルは、このプロセスを対比的に説明しています。ピジン化が「簡略化や混交」のプロセスであり、クレオール化がそれを補うための「拡張」であるとするならば、デクレオライゼーションは、その簡略化や混交を打ち消そうとする「攻撃」のような動きであると捉えています。
具体例:ゴアのポルトガル語
この現象の例として挙げられるのが、かつてのポルトガル領であったインドのゴアにおける言語状況です。リタ・マルキーリャス(1998)の研究によれば、20世紀半ばまでポルトガル統治下にあった地域では、現地の言語構造が次第に本国ポルトガルのポルトガル語に近づいていったとされています。現在、一部のコミュニティに残るポルトガル語の変種には、その過程の痕跡が見て取れます。
理論への批判と学術的な視点
デクレオライゼーションという概念は、すべての言語学者に受け入れられているわけではありません。多くの批判者は、これが「クレオール言語だけに起こる特別な現象」であるという理論的・経験的な根拠が不十分であると主張しています。
例えば、ミシェル・デグラフは、このプロセスによって具体的にどのような構造的特性が除去され、どのようなプロセスが反転するのかが厳密に定義されていないと指摘しています。歴史言語学の視点からは、言語接触による変化は普遍的な心理言語学的メカニズムに基づくものであり、クレオール言語だけに適用される固有のプロセス(sui generis)を想定する必要はないという考え方が有力です。
また、レキシファイアとの接触が必ずしも「元の言語への回帰」を意味するわけではないことも分かっています。文法化などのプロセスを通じて、むしろレキシファイアからさらに乖離していく方向へ変化する場合もあるため、デクレオライゼーションの予測が常に当てはまるわけではありません。
まとめ:言語変化のダイナミズム
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 方向性 | クレオール言語 $\rightarrow$ レキシファイア(元の言語) |
| 主な原動力 | レキシファイアの社会的威信(プレステージ) |
| 最終的な形態 | 独立した言語から、レキシファイアの方言への移行 |
| 主な批判点 | 普遍的な言語変化の一種であり、特殊なプロセスではない |
Frequently Asked Questions
デクレオライゼーションが起こると言語はどうなりますか?
クレオール言語がレキシファイア(元の言語)の文法や語彙を再導入することで、次第に元の言語に似ていきます。最終的には、独立した言語としての境界が曖昧になり、元の言語の一方言のような状態になると考えられています。
なぜレキシファイアに近づこうとするのでしょうか?
一般的に、レキシファイアの方が社会的な地位や権威(言語的威信)が高い傾向にあるためです。話し手がより高いステータスを持つ言語に近づけることで、社会的な利益を得ようとする心理や環境が影響します。
この理論に反対する学者は何を主張していますか?
「脱クレオール化」という特別な名称を付ける必要はなく、それは単なる「言語接触による変化」であると主張しています。あらゆる言語が接触すれば変化するため、クレオール言語だけを特別視する理論は根拠に欠けると批判しています。
デクレオライゼーションは必ず起こるのでしょうか?
いいえ。言語接触の結果、必ずしも元の言語に近づくとは限りません。文法化などのプロセスにより、元の言語からさらに離れて独自の進化を遂げるケースも存在します。
References
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