私たちの身の回りにある水や空気といった物質は、流動する際に一定の抵抗を示します。この抵抗の性質を数学的に定義したものがニュートン流体です。アイザック・ニュートンによって提唱されたこの概念は、流体力学における最も基本的かつ重要なモデルの一つであり、多くの液体や気体の挙動を説明する基礎となっています。
ニュートン流体の最大の特徴は、流動によって生じる「粘性応力」が、その地点での「ひずみ速度(単位時間あたりの変形率)」に正比例することです。つまり、どれだけ速くかき混ぜたり、ポンプで送ったりしても、流体自体の粘性(ねばりけ)が変化することはありません。この安定した性質により、工学的な計算において非常に扱いやすいモデルとして利用されています。
Key Facts
- 定義: 粘性応力がひずみ速度に線形的に相関する流体。
- 不変性: 撹拌や圧力の変化によって粘度が変化しない。
- 代表例: 水、空気、アルコール、グリセリンなど。
- 対比: 応力によって粘度が変わるものは「非ニュートン流体」と呼ばれる。
- 数学的基礎: 粘性応力テンソルとひずみ速度テンソルが定数(粘性テンソル)で結ばれている。
流体の粘性と数学的定義
流体が流動するとき、周囲の流体から粘性応力($\tau$)という力を受け、時間とともに変形します。この変形の速度をひずみ速度テンソル($\nabla v$)で表します。ニュートン流体では、これら二つの行列(テンソル)が、速度や応力状態に依存しない固定された係数 $\mu$(粘性テンソル)によって結ばれます。
特に、方向による性質の差がない「等方性」の流体である場合、この関係はさらに単純化され、せん断変形に対する抵抗と、圧縮・膨張に対する抵抗という2つの実数係数で記述できるようになります。

非圧縮性・等方性流体の場合
流体が圧縮されず、かつあらゆる方向で同じ性質を持つ(等方性である)場合、せん断応力 $\tau$ は以下の簡潔な式で表されます: $\tau = \mu \frac{du}{dy}$ ここで、$\mu$ は動粘度と呼ばれる比例定数であり、$rac{du}{dy}$ は流れの方向に対する速度勾配を示しています。このシンプルな線形関係こそが、ニュートン流体を定義づける本質です。
圧縮性流体と高度なモデル
実際の気体などのように圧縮が可能な流体では、より複雑な考慮が必要になります。ここでは、ガリレイ不変性(応力が流速そのものではなく、速度の空間微分にのみ依存すること)を前提とし、粘性係数を2つのラメ係数(第二粘度 $\lambda$ と動粘度 $\mu$)を用いて表現します。
このモデルでは、体積粘度 $\zeta$ という概念が導入されます。多くの計算では、計算を簡略化するために $\zeta = 0$ と仮定することがありますが、これはストークス仮説と呼ばれます。この仮説は単原子分子ガスでは有効ですが、他の液体や気体では必ずしも正確ではありません。音波の吸収や衝撃波の減衰を解析する際には、この体積粘度の影響が重要になります。
異方性流体への拡張
方向によって粘性が異なる「非等方性流体」の場合、単一の係数 $\mu$ ではなく、9つの要素を持つ粘性応力テンソル $\mu_{ij}$ が用いられます。これにより、分子粘性と乱流による渦粘性を区別して扱うことが可能になります。
ニュートン流体と非ニュートン流体の比較
すべての流体がニュートン流体であるわけではありません。応力に応じて粘度が変化する「非ニュートン流体」は非常に一般的です。例えば、激しく衝撃を与えると硬くなる「ウーブレック(ダイラタント流体)」や、塗布時に塗りやすく、壁に塗ると垂れにくくなる「ペンキ(擬塑性流体)」などが挙げられます。
これらの挙動を統一的に説明するために「べき乗則モデル」が用いられます。このモデルでは、指数 $n$ によって流体の種類を分類します。
| 流体タイプ | べき乗指数 ($n$) | 特徴 | 具体例 |
|---|---|---|---|
| 擬塑性流体 | $n < 1$ | せん断速度が上がると粘度が下がる | 血液、ポリマー溶液 |
| ニュートン流体 | $n = 1$ | 粘度が一定で変化しない | 水、空気、アルコール |
| ダイラタント流体 | $n > 1$ | せん断速度が上がると粘度が上がる | 水溶き片栗粉(ウーブレック) |
Frequently Asked Questions
ニュートン流体と非ニュートン流体の決定的な違いは何ですか?
最大の違いは「粘度が一定かどうか」です。ニュートン流体は、どれだけ速くかき混ぜても粘度が変わりませんが、非ニュートン流体は、加える力(せん断応力)や変形速度によって粘度が変化します。
水は完璧なニュートン流体と言えますか?
厳密に定義に完全に一致する実在の流体はありませんが、日常的な条件下での計算においては、水や空気はニュートン流体として近似して扱うことができ、実用上の問題はありません。
ストークス仮説とは何ですか?
圧縮性流体の解析において、体積粘度 $\zeta$ をゼロと見なす仮説のことです。多くの流体計算で簡略化のために用いられますが、音波の減衰などの精密な現象を扱う場合には不適切となることがあります。
血液はニュートン流体に分類されますか?
いいえ、血液は非ニュートン流体です。血液は成分(赤血球など)の影響を受け、せん断速度によって粘度が変化する性質を持っており、カッソンモデルなどの特殊な流体モデルで記述されます。
べき乗則モデルにおける指数 $n$ の意味は何ですか?
指数 $n$ は流体の「粘性変化の傾向」を示します。$n=1$ であれば粘度が一定のニュートン流体、$n$ が 1 より小さければせん断希薄化(擬塑性)、1 より大きければせん断増粘(ダイラタント)であることを意味します。
References
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