アメリカ合衆国メイン州において、先住民ワバナキの人々と州政府が向き合い、過去の児童福祉における過ちを正そうとした取り組みがあります。それがメイン州ワバナキ先住民児童福祉 真実和解委員会(MWTRC)です。この委員会は、単なる制度の改善ではなく、「真実の究明」「癒やし」「変革」という3つの柱を掲げ、奪われた子供たちと家族の物語を記録し、未来への道筋をつけることを目的として活動しました。
Key Facts
- 活動期間:2012年2月12日に設立され、2015年6月14日に最終報告書を提出。
- 調査対象:1978年のインド人児童福祉法(ICWA)制定から現在に至るまでの児童福祉事例。
- 衝撃的な事実:先住民の子供は、他の子供に比べて里親制度に組み込まれる確率が5.1倍高いことが判明。
- 結論:過去の政策による強制的な集団移管などを、国連の定義に基づく「文化的ジェノサイド」であると断定。
- 提言:部族の主権尊重や、ICWAの遵守を徹底するためのトレーニング導入など14項目を提示。
抑圧の歴史と制度的な背景
ワバナキの人々は、北米の広範囲にわたる地域で数千年にわたり生活してきましたが、歴史的に差別的な政策にさらされてきました。その根底にあるのが発見の教義(Doctrine of Discovery)です。これはキリスト教の植民地開拓者に先住民の土地を奪い、人々を奴隷化する権限を与えた思想であり、後の法制度にも影響を与えました。
この思想は教育制度にも波及し、1879年に設立されたカーライル・インディアン工業学校のような寄宿学校を通じて、先住民の子供たちを主流文化に同化させようとしました。カーライル校には1万人以上の子供が通いましたが、そのうち186名が在学中に亡くなるという悲劇が起きています。
養子縁組政策の転換とICWAの誕生
1958年からは「インド人養子縁組プロジェクト(IAP)」が始まり、寄宿学校への収容に代わり、先住民の子供を白人の家庭へ養子に出す政策が推進されました。その後、ARENAという組織に引き継がれ、1961年から1976年の間に、推計で12,486人もの先住民の子供たちが白人家庭へ送られたとされています。
こうした危機的な状況を受け、1978年に連邦政府はインド人児童福祉法(ICWA)を制定しました。当時の調査では、先住民の子供の25%〜30%が家庭から引き離されており、その85%が、適切な親族がいたにもかかわらずコミュニティ外に配置されていたためです。ICWAは、子供の最善の利益を守り、部族と家族の安定性を確保することを目的としています。
MWTRCの使命と活動プロセス
MWTRCは、メイン州の児童福祉システムに関わったワバナキの人々や関係者に、自らの経験を語る場を提供することで、歴史的な真実を明らかにしようとしました。委員会の主な目的は以下の通りです。
- ワバナキの人々や福祉職員、法的関係者の声を聴き、記録すること。
- 州の児童福祉システムにおけるワバナキの人々の包括的な歴史を構築すること。
- コミュニティとの連携を通じて、精神的な癒やしと深い相互理解を促進すること。
- 持続可能な制度改善を行い、個人の関係性や文化的な和解を推進すること。
委員会の構成メンバー
委員会には、多様な専門性と背景を持つメンバーが名を連ねました。メイン州国務長官のマシュー・ダンラップ氏をはじめ、マシュピー・ワンパノアグ出身のgkisedtanamoogk氏、メイン大学社会福祉大学院のゲイル・ウェルバッハ教授、先住民返還研究所の創設者サンディ・ホワイトホーク氏、そして組織開発コンサルタントのキャロル・ウィシュキャンパー氏らが、公正な調査を担いました。
最終報告書が示した現実と提言
委員会は、長老、里親、元被保護児童、裁判官、弁護士など、多様な立場の人々から約159件の証言を集めました。その結果、深刻な実態が浮き彫りになりました。
特に、2006年と2009年の連邦レビューでは、先住民の子供の50%以上で先祖の血統確認が行われていなかったことが判明しました。これにより、本来ICWAの保護を受けるべき子供たちが適切に処理されていなかった可能性が示唆されました。また、制度的な人種差別や主権を巡る対立が、児童福祉の運用を困難にしていることも指摘されました。
| カテゴリー | 具体的な提言内容 |
|---|---|
| 主権と権利 | 部族、州、連邦のプロトコルを尊重し、部族の主権を維持すること。 |
| 教育と意識改革 | 単なるチェックリストではなく、歴史的背景や偏見を認識させる高度な文化的トレーニングを導入すること。 |
| ケアの質の向上 | 先住民による里親家庭や治療的家庭を増やし、非先住民の養親家庭への文化支援を強化すること。 |
| 監視体制 | ICWAワークグループを再編し、部族と協力して定期的な遵守状況のモニタリングを行うこと。 |
Frequently Asked Questions
MWTRCとはどのような組織でしたか?
メイン州のワバナキ先住民と州政府が協力して設立した委員会で、1978年以降の児童福祉における不当な扱いを調査し、真実の究明と和解を目指した組織です。
なぜ「文化的ジェノサイド」という言葉が使われたのですか?
1948年の国連ジェノサイド条約に基づき、子供を強制的に別のグループへ移管させ、精神的・身体的な深刻な害を与えたことが、文化的な抹殺にあたると判断されたためです。
ICWA(インド人児童福祉法)の目的は何ですか?
先住民の子供が不当に家庭やコミュニティから引き離されることを防ぎ、部族の安定性と子供の最善の利益を保護することを目的に制定されました。
委員会はどのような結論を出しましたか?
先住民の子供が里親に出される確率が極めて高く、制度的な人種差別が根深く存在していることを明らかにしました。その上で、主権の尊重と文化的な意識改革を含む14の提言をまとめました。
References
- Collins, Bennett; McEvoy-Levy, Siobhan; Watson, Alison (2014). "The Maine Wabanaki-State Child Welfare Truth and Reconciliation Commission: Perceptions and Understandings". Indigenous Peoples' Access to Justice, Including Truth and Reconciliation Processes. Institute for the Study of Human Rights, Columbia University. pp. 140–169. :10.7916/D8NC603B.
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