地図データや衛星画像などの地理的な情報を扱う際、そのデータが「いつ」「どこで」「誰によって」「どのように」作成されたのかを正確に把握することは極めて重要です。こうした地理空間データに付随する管理情報を地理空間メタデータ(Geospatial Metadata)と呼びます。これは単なるデータのメモではなく、GIS(地理情報システム)やデジタルアーカイブにおいて、必要な情報を効率的に検索し、正しく活用するための不可欠なインデックスとして機能します。
Key Facts
- 定義: 地理空間メタデータとは、地理データの識別、範囲、品質、時間的・空間的特性などを記述したデータのこと。
- 国際標準: ISO 19115が業界の主要な標準規格であり、デジタルデータだけでなく地図や文書などの非デジタル媒体にも適用可能。
- 実装形式: 多くのメタデータはXML形式で記述され、ISO 19139によってそのスキーマ(構造)が定義されている。
- 目的: ユーザーがデータの有用性を判断し、適切なアクセス方法を特定できるようにすること。
地理空間メタデータの定義と重要性
地理空間メタデータは、GISファイルや地理空間データベース、地球観測画像などのデジタルリソースだけでなく、データカタログやマッピングアプリケーション、関連ウェブサイトなどの広範なリソースを文書化するために使用されます。具体的には、タイトルや要約といった基本的な書誌情報から、投影法や地理的範囲などの空間的な要素、さらには属性ラベルの定義といったデータベース的な要素までが含まれます。
米国連邦地理データ委員会(FGDC)によれば、メタデータレコードはリソースの基本特性を捉えた情報ファイルであり、一般的にXMLドキュメントとして提示されます。これにより、データの「誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように」という背景が明確になります。
国際標準規格:ISO 19115とISO 19139
地理空間メタデータの運用において中心的な役割を果たすのが、国際標準化機構(ISO)による規格です。特にISO 19100シリーズの一部であるISO 19115は、地理情報の記述方法を定義する世界的な基準となっています。
ISO 19115の役割
ISO 19115は、デジタル地理データセットの識別、品質、空間的・時間的側面、コンテンツ、空間参照、配布方法などを明確に記述するための手順を提供します。これにより、共通の用語と定義が確立され、地理データの効果的な検索と適切な利用が促進されます。2013年の改訂では、インターネットを利用したメタデータ管理への対応や、新しいメタデータ要素(コードリスト)の追加が行われ、利用期間やユーザーによる制限設定が可能になりました。
ISO 19139によるXML実装
ISO 19115で定義された概念を実際にコンピュータで処理可能な形式にするのがISO 19139です。これはISO 19115のXML実装スキーマを提供し、メタデータレコードの形式を規定します。この規格により、地理空間メタデータの記述、検証、および異なるシステム間での交換が容易になります。
地理空間メタデータの発展と歴史
メタデータの重要性は1980年代から1990年代にかけて認識され始め、当初は各機関や国が独自の形式で開発していました。例えば、1988年にはNASAが「DIF」形式を承認し、1990年代前半には米国のFGDCが独自の標準を策定しました。また、オーストラリアとニュージーランドの空間情報評議会(ANZLIC)も1996年にガイドラインを公開しています。
その後、バラバラだった規格を統合する動きが強まり、1999年から2002年にかけてISO/TC 211による調和作業が行われ、2003年にISO 19115がリリースされました。2000年代に入ると、XMLの普及に伴いOpen Geospatial Consortium (OGC) がGML (Geography Markup Language) をリリースし、ウェブ上でのメタデータ交換が加速しました。さらに、セマンティックウェブの発展により、英国のOrdnance Surveyによる水文学や行政に関するオントロジー(概念体系)の開発など、より高度な意味論的表現への移行が進んでいます。
メタデータディレクトリと管理ツール
作成されたメタデータは、「メタデータカタログ」や「データディレクトリ」と呼ばれる索引に登録され、ユーザーが検索可能な状態で管理されます。
主要なディレクトリサービス
- GCMD (Global Change Master Directory): 地球科学研究に関連する2万件以上のデータセットとサービスを管理。
- ECHO (EOS Clearing House): 膨大な数の地球科学データセットとグラニュールレコードを保持するレジストリ。
- GoGeo: エディンバラ大学などが運営し、地理的にターゲットを絞ったデータセット検索を可能にするサービス。
- GIS Inventory: 米国NSGICが維持し、州・地方政府のGIS実装状況を追跡して空間データインフラ(SSDI)構築を支援するツール。
メタデータ作成・管理ツール
多くの商用GISソフト(ArcGIS Desktop, AutoCAD Map 3D, GeoMediaなど)がメタデータの編集機能を備えています。一方で、オープンソースのソリューションも充実しています。GeoNetworkは国際標準に基づいた包括的な管理ソフトであり、pycswはPythonで実装されたOGC準拠のCSWサーバーです。また、pygeometaはYAML形式の設定ファイルを用いて簡単に標準準拠のメタデータを生成できる軽量なツールとして知られています。
| カテゴリ | 名称 | 主な特徴・役割 |
|---|---|---|
| 国際標準 | ISO 19115 | 地理空間メタデータの概念的定義と記述手順の標準 |
| 実装規格 | ISO 19139 | ISO 19115をXML形式で実装するためのスキーマ |
| オープンソースツール | GeoNetwork | メタデータの管理・公開を行う包括的なOSSソリューション |
| 開発ライブラリ | pygeometa / R geometa | PythonやRを用いて標準形式のメタデータを生成・検証 |
| ディレクトリ | GCMD / ECHO | 地球科学データの検索・アクセスを可能にする大規模カタログ |
Frequently Asked Questions
地理空間メタデータと通常のメタデータの違いは何ですか?
通常のメタデータが一般的な文書やファイルの属性(作成日や著者など)を扱うのに対し、地理空間メタデータは「空間参照(座標系)」「地理的範囲(バウンディングボックス)」「投影法」など、地理的な位置情報に特化した詳細な属性を保持します。
ISO 19115はデジタルデータにしか使えないのでしょうか?
いいえ。ISO 19115の原則は、デジタルデータやサービスだけでなく、紙の地図、海図、テキスト文書などの非デジタルリソースや、地理情報以外のデータにも拡張して適用することが可能です。
XML形式でメタデータを記述するメリットは何ですか?
XML(Extensible Markup Language)を使用することで、データの構造が厳格に定義され、異なるソフトウェアやシステム間でも情報を正確に交換・検証できるため、相互運用性が大幅に向上します。
メタデータカタログを利用することでどのようなメリットがありますか?
膨大なデータセットの中から、自分の研究や業務に必要な条件(特定の地域、期間、精度など)に合致するデータを迅速に見つけ出すことができ、データの重複作成を防ぎ、リソースの有効活用が可能になります。
初心者におすすめのメタデータ作成ツールはありますか?
シンプルなインターフェースを求める場合は、ウェブベースのGIS Inventoryのようなサーベイ形式のツールが適しています。また、プログラミング経験がある場合は、YAML形式で記述できるpygeometaなどが効率的です。
References
- International Organization for Standardization (1 April 2014). "ISO 19115-1:2014(en)". ISO. Retrieved 1 April 2016.
- "Geospatial Metadata – Federal Geographic Data Committee". www.fgdc.gov. Retrieved 1 April 2016.
- Gene Major and Lola Olsen: "A short history of the DIF". On GCMD website, visited 16 October 2006 Archived 17 October 2006 at the
- MIT Libraries Guide: "Federal Geographic Data Committee (FGDC) Metadata". On MIT Libraries website, visited 16 October 2006 Archived 18 October 2006 at the
- "ANZLIC Metadata Profile Guidelines version 1.2 July 2011" (PDF). ANZLIC. 2011. Archived from the original (PDF) on 18 March 2016. Retrieved 11 April 2011.
ANZLIC[:] The Spatial Information Council of Australia and New Zealand (formerly known as the Australia New Zealand Land Information Council)
- ANZLIC Metadata Guidelines: Core metadata elements for geographic data in Australia and New Zealand, Version 2 (February 2001)
- ISO 19115 Geographic Information – Metadata. International Organization for Standardization (ISO), Geneva, 2003
- "ISO 19115 Metadata Factsheet" (PDF). AG Outreach. Archived from the original (PDF) on 17 April 2012. Retrieved 22 November 2012.
- "NASA Metadata and the New ISO 19115-1 Capabilities - NASA ISO for EOSDIS - Earthdata Wiki". wiki.earthdata.nasa.gov. Retrieved 1 April 2016.
- International Organization for Standardization (15 December 2012). "ISO/TS 19139-2:2012(en)". ISO. Retrieved 1 April 2016.