刑事事件で逮捕されたり、起訴されたりした際、自分自身の弁護士を雇う余裕がない人々を救済するための仕組みが「当番弁護士(Duty Solicitor/Duty Counsel)」制度です。この制度は、主にイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどのコモンウェルス諸国で導入されており、経済的な理由で法的支援を受けられない人々に対し、無料で一時的な法的助言や代理を提供します。
一般的に、当番弁護士は個人の法律事務所で活動する私選弁護士が交代で務めます。これは、国家が直接雇用する弁護士が事件の全過程を担当するアメリカなどの「公設弁護人(Public Defender)」制度とは異なるアプローチです。
Key Facts
- 目的: 自身の弁護士を持たない、または経済的に雇えない被疑者・被告人に無料の法的支援を提供すること。
- 主な導入国: イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど。
- 運用形態: 多くの場合、私選弁護士が交代で当番を務める形式(一部に公設弁護人制度との併用あり)。
- 支援範囲: 警察での取り調べ段階から、裁判所での初出廷まで、状況に応じて異なる。
イギリスにおける当番弁護士制度
イングランドおよびウェールズの二段構えの体制
イングランドとウェールズでは、状況に応じて2つの異なるスキームが並行して運用されています。
- 警察署当番弁護士: 逮捕された被疑者が、拘留中に電話または対面で相談できる制度です。特に、事件への関与について取り調べを受ける際に利用されることが多く、捜査期間中であれば、容疑の内容に関わらず何度でも助言を受ける権利があります。
- 裁判所当番弁護士: 起訴後の初出廷時に、治安判事裁判所で相談や代理を依頼できる制度です。拘留中の方だけでなく保釈中の方も利用可能ですが、保釈中でかつ禁錮刑に当たらない軽微な罪の場合、利用は制限されます。また、一つの事件につき一度しか利用できないという制約があります。
これらの制度はリーガルエイド庁(Legal Aid Agency)が管理しており、裁判所や警察署の規模に応じて、複数の弁護士が配置されます。例えば、マンチェスターの中央地区のような多忙なエリアでは、常に4名の弁護士が待機しています。
資格要件と現状の課題
当番弁護士として活動するには、法曹協会(Law Society)の「刑事訴訟認定スキーム」への加入が必須です。加入には、協会が設定した能力基準を満たし、一連のアセスメントに合格する必要があります。しかし、2018年の法曹協会の報告によると、当番弁護士の約半数が50歳を超えており、深刻な後継者不足と人手不足が課題となっています。
その他の公的弁護体制
イングランドとウェールズには、2001年からリーガルエイド庁の部門として「公設弁護人サービス(Public Defender Service)」も存在し、4つの拠点で活動しています。また、スコットランドではスコットランド法律扶助委員会(SLAB)が制度を運営しており、現在は非営利組織である公設弁護人事務所(PDSO)が中心的な役割を担っています。
カナダにおける運用と特徴
カナダ(特にオンタリオ州)の当番弁護士(Duty Counsel)は、イギリスのソリシター(事務弁護士)とバリスター(法廷弁護士)の両方の役割を兼ね備えています。オンタリオ州法律扶助(Legal Aid Ontario)などの州政府機関から報酬が支払われ、刑事事件だけでなく、家族法や児童保護に関する限定的な法的サービスも提供しています。
カナダでは、逮捕・拘留された者が遅滞なく弁護士と話す権利が保障されており、警察はこれを通知し、アクセスを容易にする義務があります。当番弁護士は、この権利を具体化するための第一接点となります。彼らは、被疑者が別の弁護士を確保するまでの間、アドホック(臨時的)に裁判所での代理人を務めます。
スタッフ弁護士のほか、私選弁護士がパートタイムで従事する「日雇い弁護士(per diem lawyers)」も多く、地域社会への貢献として活動しています。なお、家族法などのケースでは、書類作成の支援やケースカンファレンスへの出席は行いますが、長期的な案件担当は行わないのが一般的です。
その他の国々との比較
オーストラリアでは「当番弁護士(Duty Lawyer)」と呼ばれ、各州や準州の法律扶助委員会(LAC)を通じて、社会的弱者に提供されています。一方で、アメリカやブラジルでは、拘留中の尋問から公判、判決、上訴に至るまで一貫して担当する「公設弁護人制度」が主流となっており、当番弁護士制度とはその役割の範囲が異なります。
| 項目 | 当番弁護士制度 (Duty Solicitor) | 公設弁護人制度 (Public Defender) |
|---|---|---|
| 主な雇用形態 | 私選弁護士が交代で担当することが多い | 国家・政府が直接雇用する |
| 支援の期間 | 一時的・限定的な支援(初出廷など) | 起訴前から上訴まで一貫して担当 |
| 主な導入地域 | イギリス、カナダ、オーストラリア等 | アメリカ、ブラジル等 |
| 利用条件 | 主に資産審査(Means Test)による | 経済的困窮者(Indigent)が対象 |
Frequently Asked Questions
当番弁護士は誰でも無料で利用できますか?
原則として、自分自身の弁護士を雇う余裕がないことが条件となります。多くの場合、資産審査(ミーンズテスト)が行われ、経済的に困難であると判断された場合に無料で利用可能です。
イギリスの裁判所当番弁護士は、何度でも利用できますか?
いいえ。イングランドとウェールズの裁判所スキームでは、一つの起訴事項につき、利用できるのは一度だけと決められています。これは、警察署での相談が捜査期間中何度でも可能である点とは異なります。
カナダの当番弁護士は、どのような事件を担当しますか?
主に刑事事件を担当しますが、オンタリオ州などの地域では、家族法や児童保護に関する案件でも限定的な法的助言や支援を提供しています。
当番弁護士になるには特別な資格が必要ですか?
国によって異なりますが、例えばイングランドとウェールズでは、法曹協会の「刑事訴訟認定スキーム」に加入し、一定の能力基準を満たすためのアセスメントに合格する必要があります。
公設弁護人と当番弁護士の最大の違いは何ですか?
最大の違いは「担当期間」と「雇用形態」です。公設弁護人は政府雇用で事件の全プロセスをサポートしますが、当番弁護士は主に私選弁護士が交代で務め、初出廷などの特定のタイミングで一時的な支援を提供します。
References
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