鉄道や路面電車、トロリーバスなどの電気車両にエネルギーを供給する不可欠なインフラが架空電車線(オーバーヘッドライン)です。これは、車両上部の集電装置(パンタグラフなど)を介して電力を伝送する電気ケーブルのシステムを指します。国際鉄道連合(UIC)では一般的に「オーバーヘッドライン」と呼ばれますが、用途や地域によってカテナリー、トロリー線、架空接触線など、多様な名称で呼ばれています。
基本的な仕組みは、高電圧の電力網に接続された給電所から、線路沿いに配置された電線へ電力を送り、それを車両が回収するというものです。トンネル内などの特殊な環境では、電線の代わりに剛性のある導電レールが使用されることもあります。

Key Facts
- 役割: 電気機関車や路面電車、トロリーバスへ電力を供給する伝送路。
- 構成: 主に接触線(トロリー線)と、それを吊り下げる吊架線(カテナリー線)で構成される。
- 材質: 高い導電率を持つ銅や、強度を高めるための銅合金(銀、カドミウム、マグネシウム添加など)が使用される。
- 張力管理: 温度変化による電線の伸縮を防ぐため、重りやバネによる自動張力調整装置が導入されている。
- 絶縁: 異なる電源区間を分けるため、セクション絶縁体や中性区間(死区間)が設けられている。
電線の種類と材質の選定
架空電車線に使用される素材は、電気的な導電性と、物理的な引張強度のバランスによって決定されます。一般的に銅が最も優れた導電性を持つため多用されますが、高速走行時の振動や荷重に耐えるため、他の金属を配合した合金が採用されるケースが多くあります。
地域別の材質例
- 欧州・英国: 銅に銀、カドミウム、マグネシウム、スズなどを添加した高強度銅合金が一般的です。これらの材質は、電線上部の識別溝によって区別されています。
- 旧ソ連圏: 冷間引抜きの純銅が主流で、吊り下げ金具を固定するための溝が設けられています。強度向上のため、微量のスズ(0.04%)が添加されることがあります。
- スロベニア: 3kVシステムでは、接触線に100〜150mm²、吊架線に70〜150mm²の銅または銅合金が使用されています。
なお、アーク放電による熱ダメージを防ぐため、これらの電線は熱による接合(溶接など)が行われないのが原則です。
張力維持のメカニズム
屋外に設置された電線は、気温の変化によって伸び縮みします。これが放置されると、夏場に電線が弛んでパンタグラフが脱線したり、冬場に張りすぎて断線したりする危険があります。これを防ぐのが張力調整システムです。
自動張力調整(AT)
中・高速鉄道では、重りや油圧シリンダー、あるいはカム機構を備えたねじりバネを用いて、常に一定の張力(一般的に9〜20kN)を維持します。これにより、温度に関わらず電線の高さと張力が安定します。

固定端結線(FT)
低速走行区間や、温度変化が少ないトンネル内では、電線を構造物に直接固定する方式が採用されます。この場合、張力は約10kN程度に設定されますが、外気温の影響を受けて弛みや張りが発生しやすくなります。
特殊な構造と交差部の処理
異なる電気方式の路線が交差する場合や、特殊な地形を通過する場合、高度な設計が必要となります。
路面電車とトロリーバスの共存
路面電車は通常1本の電線で集電しますが、トロリーバスは帰路電流を確保するために2本の電線を必要とします。これらが交差する場合、絶縁材のトラフ(樋)を用いて短絡を防ぎ、パンタグラフが途切れることなく集電できるよう複雑な分岐構造が設けられます。

特殊な給電方式
- 剛性導電レール: トンネル内など空間が限られている場所では、電線の代わりに金属製のレールを設置し、集電を行います。
- 中性区間(ニュートラルセクション): 電源系統が切り替わる地点に設けられる無電化区間です。車両はこの区間を慣性で走行し、短絡事故を防ぎます。
- 非電化橋梁: 可動橋などの構造上の理由で電線を張れない場所では、パンタグラフを上げたまま惰性で通過する設計がなされている場合があります。

架空電車線の概要まとめ
| 項目 | トロリー線(接触線) | カテナリー線(吊架線) | 剛性導電レール |
|---|---|---|---|
| 主な役割 | パンタグラフと直接接触し給電 | 接触線を吊り下げて高さを維持 | 狭小空間での給電 |
| 主な材質 | 純銅、銅合金 | 銅、銅合金(多芯線) | アルミニウム合金、銅 |
| 適用速度 | 低速〜高速(張力による) | 中速〜高速 | 低速〜中速(主にトンネル) |
| 設置場所 | 全電化区間 | 幹線・高速線 | 地下鉄・トンネル内 |
Frequently Asked Questions
なぜ電線に銅が使われるのですか?
銅は電気抵抗が非常に低く、電力を効率よく伝送できるためです。ただし、銅だけでは強度が不足する場合があるため、用途に応じて銀やマグネシウムなどの金属を混ぜた合金が使用されます。
「カテナリー」とは具体的に何を指しますか?
単なる1本の電線ではなく、上部の吊架線から吊り下げられた接触線を含むシステム全体を指します。これにより、高速走行時でもパンタグラフが安定して接触し続けることができます。
温度が変わると電線はどうなりますか?
金属であるため、暑くなると伸びて弛み、寒くなると縮んで張ります。これを放置すると集電不良や断線につながるため、重りなどを用いた自動張力調整装置で常に一定の張力を保っています。
中性区間(死区間)があるのはなぜですか?
鉄道の電源は一定の間隔で給電所から供給されています。異なる給電所からの電力が直接ぶつかると短絡(ショート)して事故になるため、その間に電気的に絶縁された区間を設けています。
トロリーバスと路面電車の電線は何が違いますか?
路面電車はレールを帰路(マイナス側)として利用するため電線は1本で済みますが、ゴムタイヤのトロリーバスはレールを使えないため、往路用と復路用の2本の電線が必要です。
References
- UIC English/French/German Thesaurus.
- Исаев, И. П.; Фрайфельд, А. В.; "Беседы об электрической железной дороге" (Discussions about the electric railway) Москва, "Транспорт", 1989. pp, 186–7
- See previous reference and Ботц Ю. В., Чекулаев, В. Е., Контактная сеть. Москва "Транспорт" 1976 p. 54
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![B&O's overhead third-rail system at Guilford Avenue in Baltimore, 1901, part of the Baltimore Belt Line. The central position of the overhead conductors was dictated by the many tunnels on the line: the ∩-shaped rails were located at the highest point in the roof to give the most clearance.[9]](/images/7f/2f/7f2fcd0c6721862bb4e261ab679436ced846bc9b8d4e4cc388615cbbbe4cc21a.jpg)








