自然界に広く分布する角閃石(かくせんせき)は、針状や柱状の結晶を持つケイ酸塩鉱物のスーパーグループです。その名称はギリシャ語で「曖昧な」を意味する言葉に由来しており、組成や外観が極めて多様であることから名付けられました。緑色や黒色、あるいは無色や青色など、多彩な色彩を持つことが特徴です。
化学的には鉄やマグネシウムを含み、二重鎖状のSiO4四面体構造を持つため、鉱物学的に非常に重要な位置を占めています。

Key Facts
- 構造的特徴:二重鎖状のケイ酸塩(イノシリケート)であり、水酸基(OH)やハロゲンを含有する。
- 識別点:輝石と似ているが、劈開角が約120度と鈍角である点と、密度が低い点で区別される。
- 産出環境:中性から酸性の火成岩、および多様な変成岩(角閃岩など)に多く含まれる。
- 多様な種:ホルンブレンド、陽起石、藍閃石など、多くの亜種が存在する。
- 健康リスク:一部の種(石綿/アスベスト)は、吸入により深刻な健康被害を引き起こす可能性がある。
結晶構造と鉱物学的性質
角閃石は、単鎖構造を持つ輝石(Pyroxene)と密接に関連していますが、決定的な違いはその骨格にあります。角閃石は二重鎖状ケイ酸塩であり、シリカ四面体が2本連なった鎖状構造を形成しています。この構造は結晶の[001]軸方向に伸びており、金属イオンがこれらの鎖を結合させることで、いわば「Iビーム」のような強固な骨格を作り上げています。
また、構造内に大きな隙間があり、そこにナトリウムなどの大きな金属イオンが配置されることがあります。この構造的な弱点が、角閃石特有の劈開面(結晶が割れやすい方向)を決定づけています。

輝石との比較
外見上、角閃石と輝石は非常に似ていますが、以下の点で明確に区別できます。まず、輝石の劈開角がほぼ90度であるのに対し、角閃石は約120度の斜めの角度を持ちます。また、角閃石は構造内に必須成分として水酸基(OH)やフッ素(F)、塩素(Cl)などのハロゲンを含んでおり、これが輝石にはない大きな特徴です。
地質学的分布と生成過程
角閃石は、火成活動と変成作用の両方によって生成されます。特に、シリカ含有量が高く水分を多く含むマグマから結晶化しやすいため、苦味質(マフィック)な岩石よりも、中性から酸性の火成岩に多く見られます。例えば、安山岩では最大で約20%の含有率に達することがあります。

また、変成岩においても重要な役割を果たします。石灰岩が接触変成作用を受けることで陽起石(トレモライト)が生成されたり、輝石が変質してホルンブレンドに置き換わったりすることがあります。このように輝石から角閃石へ擬似的に置き換わったものは「ウラライト」と呼ばれます。

代表的な岩石としては、角閃石を主成分とする角閃岩(Amphibolite)が挙げられます。これは玄武岩などが変成して形成される代表的な岩石です。

主要な鉱物種と分類
角閃石グループは、化学組成(特にカルシウムやナトリウムの含有量)に基づいて分類されます。鉄とマグネシウムの置換による固溶体系列を形成することが多く、温度変化に伴い成分が分離(離溶)して薄い層状の構造(ラメラ)を作ることがあります。
| グループ | 代表的な鉱物 | 対称性 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 鉄マグネシウム系 | アンフィライト、キュミング石 | 斜方晶 / 単斜晶 | Ca含有量が低い |
| カルシウム系 | 陽起石、藍閃石、ホルンブレンド | 単斜晶 | Caを多く含み、一般的 |
| ナトリウムカルシウム系 | リクテライト、カトフォライト | 単斜晶 | NaとCaの両方を含む |
| ナトリウム系 | 藍閃石(グラウコファン)、リーベッカイト | 単斜晶 | Naに富む、青色を呈することがある |
特筆すべき鉱物種
- ホルンブレンド:組成変動が非常に激しく、多くの固溶体系列を含む。閃緑岩や正長岩に一般的。
- 藍閃石(アクチノライト):鮮やかな緑色を呈し、放射状の針状結晶を作ることが多い。緑色片岩の主要構成鉱物。
- グラウコファン:青色の繊維状鉱物で、高圧変成作用による青色片岩に特徴的に現れる。
石綿(アスベスト)としての側面
角閃石グループの中には、繊維状の形態を持つものが含まれており、これらは一般に石綿(アスベスト)と呼ばれます。具体的には、アンフィボライト、リーベッカイト、キュミング石/グルネライト系列、およびアクチノライト/トレモライト系列が該当します。
例えば、リーベッカイトは「青いアスベスト(クロシドライト)」として知られています。これらの鉱物は工業的に利用されてきましたが、微細な繊維を吸入することで深刻な健康被害を及ぼすため、現在は厳格に管理されています。
Frequently Asked Questions
角閃石と輝石の最も簡単な見分け方は何ですか?
最も分かりやすいのは「劈開角」の確認です。結晶の割れ目(劈開)の角度を観察し、ほぼ直角(約90度)であれば輝石、鈍角(約120度)であれば角閃石である可能性が高いです。
なぜ角閃石は多くの色を持っているのですか?
化学組成が非常に柔軟で、鉄、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、アルミニウムなどの元素が互いに置換しやすいためです。どの元素がどの程度含まれるかによって、緑、黒、青、茶色などの多様な色彩が生まれます。
「ホルンブレンド」とは具体的にどのような鉱物ですか?
角閃石グループの中で最も一般的かつ組成が複雑な鉱物です。多くの火成岩や変成岩に含まれており、詳細な化学分析(電子線マイクロプローブなど)を行わない限り、正確な亜種の特定が困難なほど多様な成分構成を持っています。
アスベスト(石綿)はすべての角閃石に含まれるのですか?
いいえ、すべての角閃石がアスベストになるわけではありません。特定の化学組成を持ち、かつ繊維状に成長した形態を持つ種(例:トレモライトやリーベッカイトなど)のみが、健康リスクのある石綿として分類されます。
References
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