1860年6月1日から5ヶ月間にわたって実施された第8回アメリカ合衆国国勢調査は、国家が分断される直前の緊迫した社会状況を鮮明に記録した歴史的資料です。この調査では、33の州と10の組織化された領土における人口が計測され、当時のアメリカが抱えていた深刻な社会矛盾と急速な成長の両面が浮き彫りになりました。
主要な統計事実(Key Facts)
- 総人口: 31,443,321人(1850年比で35.6%の増加)
- 奴隷人口: 総人口のうち3,953,760人が奴隷として計上
- 最大人口州: ニューヨーク州(3,880,735人)
- 最小人口州: オレゴン州(52,465人)
- 最大都市: ニューヨーク市(813,669人)
戦火に翻弄されたデータ集計
調査の実施後、集計作業が進む中でアメリカは南北戦争へと突き進んでいきました。このため、当時の国勢調査局長ジョセフ・C・G・ケネディ率いるスタッフが作成した公開報告書は、図表や地図を省いた簡略的な内容に留まりました。
しかし、軍事的な視点からは詳細な地図が作成されていました。北軍の現場指揮官向けに、白人人口や奴隷人口の分布、郡ごとの主要農産物、さらには鉄道や郵便路などの輸送ルートを記した戦略的な地図が提供されたのです。

人口分布と都市の変遷
当時の都市ランキングでは、ニューヨーク市が圧倒的な首位を維持していましたが、注目すべきはフィラデルフィアの躍進です。1854年の統合法(Act of Consolidation)により、周辺の小さな町(スプリングガーデン、ノーザンリバティーズ、ケンジントンなど)が合併したことで、フィラデルフィアは1820年以来失っていた「全米第2の都市」の座を取り戻しました。この地位は1890年にシカゴに抜かれるまで続きます。
| 州・領土名 | 自由民人口 | 奴隷人口 | 総人口 | 奴隷人口比率 (%) |
|---|---|---|---|---|
| ニューヨーク州 | 3,880,735 | 0 | 3,880,735 | 0 |
| ペンシルベニア州 | 2,906,215 | 0 | 2,906,215 | 0 |
| ミシシッピ州 | 354,674 | 436,631 | 791,305 | 55.2 |
| サウスカロライナ州 | 301,302 | 402,406 | 703,708 | 57.2 |
| オレゴン州 | 52,465 | 0 | 52,465 | 0 |
調査項目と社会階層の記録
1860年の調査は、大きく分けて「自由民(Schedule 1)」と「奴隷(Schedule 2)」という2つの異なる形式で記録されました。自由民向けには、年齢、性別、人種(白人、黒人、ムラート)のほか、15歳以上の職業、不動産および個人資産の価値、出生地、就学状況、読み書きの能力などが詳細に問われました。
一方で奴隷向けの調査では、所有者の名前、年齢、性別、人種に加え、州外からの逃亡歴や解放された人数、奴隷小屋の数などが記録されました。これは、当時の南部において人間が法的に「財産」として扱われていた残酷な現実を裏付けています。
労働構造と人的資本
職業データを見ると、全米の就業者の約10%が農場主または小作農であり、次いで農場労働者(3.2%)、一般労働者(3.0%)と続き、農業中心の経済構造が明確です。地域的な特徴として、マサチューセッツ州エセックスのような町では、男性の靴製造や女性の靴製本といった特定産業への集中が見られました。
また、学生として登録されていた人口はわずか0.2%に過ぎませんでした。これは、当時の人的資本(労働者が持つスキルや知識の蓄積)の成長速度が極めて緩やかであったことを示唆しています。
よくある質問(FAQ)
1860年の国勢調査で最も人口が多かった州はどこですか?
ニューヨーク州で、人口は3,880,735人に達していました。
当時の都市人口で2位だったのはどの都市ですか?
フィラデルフィアです。1854年の周辺地域との合併により、再び全米第2位の人口規模となりました。
調査ではどのような職業が一般的でしたか?
農業に従事する人々が最も多く、農場主や小作農で全体の約10%を占めていました。また、地域によっては靴製造などの手工業が盛んでした。
奴隷人口はどのように記録されていましたか?
「Schedule 2」という専用の形式で、所有者の名前や奴隷の数、年齢、性別、逃亡歴などが記録されていました。
この調査結果が軍事的に利用されたのはなぜですか?
南北戦争の勃発に伴い、北軍の指揮官が南部の人口分布、主要産品、交通網(鉄道や郵便路)を把握し、戦略を立てるために利用されたためです。
References
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