カリフォルニア州オークランドを拠点とするAM 960周波数のラジオ局は、1世紀近い歴史の中で、音楽、政治、ビジネス、そしてスポーツと、時代のニーズに合わせてその姿を劇的に変えてきました。地域社会に根ざした放送から、全米規模のネットワーク番組まで、その変遷はサンフランシスコ・ベイエリアのメディア史を象徴しています。
Key Facts
- 創業: 1925年7月8日にKFWMとして放送開始。
- 黄金期: KABL時代に「ビューティフル・ミュージック」形式で地域No.1の聴取率を記録。
- 政治的転換: KQKEやKKGNとして、リベラルな視点の「プログレッシブ・トーク」を展開。
- ビジネス展開: 2014年から2024年までBloomberg Radioの提携局として運営。
- 現状: 2024年10月より「iHeart Sports Talk and More」としてスポーツ・トーク形式へ移行。
黎明期からKROW時代へ
この放送局の歴史は1925年に始まります。当初はオークランド教育協会が所有するKFWMとして開局し、地元の有力紙オークランド・ポスト・エンクワイア紙が、競合するKLX局に対抗するために設立しました。1930年6月にはコールサインをKROWに変更し、フルサービス局として展開。コメディアンのフィリス・ディラーや、後に名声を馳せるドン・シャーウッドといった才能ある人物を輩出したことで知られています。
1947年には、オークランド港からリースした20エーカーの島に新しい送信所を建設しました。これにより、送信出力が1,000ワットから5,000ワットへと大幅に強化され、放送エリアが拡大しました。
伝説の「ビューティフル・ミュージック」局 KABL
1959年、ラジオ界の先駆者ゴードン・マクレンドンがKROWを買収し、KABLへとリニューアルしました。マクレンドンは当初、得意のTop 40形式(ヒット曲中心の構成)を検討していましたが、市場に競合が多いことを察知し、テキサス州のKIXL局で成功していた「ビューティフル・ミュージック」形式を採用することに決めました。
この形式は、テンポに合わせて構成された3曲のインストゥルメンタル曲と1曲のボーカル曲を15分単位で繰り返すという緻密な構成でした。リニューアル直前には、ホラー映画のテーマ曲「Gila Monster」をループ再生させるという奇策(スタンティング)を行い、業界にTop 40局への転換を予感させましたが、実際には落ち着いた大人のリスナーをターゲットにした音楽局としてデビューし、瞬く間にサンフランシスコで聴取率1位の座を勝ち取りました。
KABLは、オーケストラやストリングスの心地よい音楽に、軽いクラシックやラテン音楽を織り交ぜた編成が特徴でした。また、サンフランシスコの生活を描いた詩的な小話や、曲間に挿入されるハープの音色、ニュースを知らせるケーブルカーのベルなど、情緒的な演出がリスナーに愛されました。
一方で、オークランドに免許を持つ局でありながら、意図的に「サンフランシスコのラジオ」であることを強調する宣伝を行い、連邦通信委員会(FCC)から是正勧告と罰金を受けるというエピソードも残っています。
フォーマットの変遷とインターネットへの移行
1990年代後半になると、KABLはアダルト・スタンダード形式(伝統的なポップスやビッグバンド)へ移行しました。一時は90年代後半の流行に乗ってスウィング・ダンス番組を放送したり、60〜70年代のソフトロックを試行したりしましたが、リスナーの反発もあり、伝統的なスタイルへの回帰を繰り返しました。
2004年9月28日、ついにAM 960からKABLのコールサインとフォーマットが消滅しました。その後、KABLの名は一時的にFM局やインターネットラジオとして存続しましたが、2007年にはベイエリア・ラジオ・ミュージアムによるアーカイブ的なストリーミング配信へと引き継がれました。
政治色を強めたKQKEとKKGNの時代
KABLの後を継いだのは、KQKE(ブランド名:960 The Quake)でした。ここでは「プログレッシブ・トーク」と呼ばれるリベラル・左派的な政治トーク番組を展開し、エド・シュルツやステファニー・ミラーなどの全国放送プログラムを配信しました。また、LGBTコミュニティ向けの番組「Shake!」や、ウィリー・ブラウン元市長らによる地元密着の政治風刺番組なども放送されました。
2007年8月にはコールサインをKKGN(ブランド名:Green 960)に変更し、環境問題に特化したプログラミングへと方向性を転換しました。
KNEWへの変更とBloomberg Radioの導入
2012年1月、局名はKNEWとなり、より幅広いトーク形式へ移行しました。当初はリベラルな番組を維持しつつも、グレン・ベックなどの保守的な番組を導入する混在形式となりましたが、2014年1月には完全に保守派のトーク局「The Patriot」へと転換し、ラッシュ・リンボーなどの著名な保守派パーソナリティを起用しました。
しかし、そのわずか数ヶ月後の2014年9月29日、KNEWは再び方向転換し、ニューヨークのBloomberg Radioと提携してビジネス特化型の放送を開始しました。

この期間中、KNEWはビジネスニュースだけでなく、2020年からはオークランド・アスレチックスの公式放送局としての役割も担い、チームの試合を中継しました。

最新の展開:iHeart Sports Talk and More
Bloomberg L.P.との10年間にわたるマーケティング契約は2024年9月30日に終了しました。これに伴い、2024年9月27日にiHeartMediaは、KNEWをハイブリッド形式のスポーツ&トーク局「iHeart Sports Talk and More」としてリニューアルすることを発表しました。
現在は、午前6時から午後7時までFox Sports Radioの全国ラインナップを放送し、それ以外の時間帯はPremiere Networksのトーク番組を配信しています。また、オークランド・アスレチックスの試合中継についても、チームのサクラメント移転後もKNEWおよびサクラメントのKSTEを通じて継続される予定です。
放送形式の変遷まとめ
| 期間 | コールサイン | 主なフォーマット・特徴 |
|---|---|---|
| 1925年 - 1959年 | KFWM / KROW | フルサービス局(地域密着型) |
| 1959年 - 2004年 | KABL | ビューティフル・ミュージック / アダルト・スタンダード |
| 2004年 - 2012年 | KQKE / KKGN | プログレッシブ・トーク / 環境問題 |
| 2012年 - 2014年 | KNEW | 総合トーク → 保守派トーク(The Patriot) |
| 2014年 - 2024年 | KNEW | ビジネス(Bloomberg Radio) / スポーツ中継 |
| 2024年 - 現在 | KNEW | スポーツ&トーク(iHeart Sports Talk and More) |
Frequently Asked Questions
KABLが「ビューティフル・ミュージック」で成功した理由は何ですか?
当時のサンフランシスコ市場に多かった激しいロックンロールやTop 40形式を避け、落ち着いた大人のリスナー層に訴求したためです。また、ケーブルカーのベルなどの地域的な演出を取り入れたことで、強いアイデンティティを確立しました。
KABLがFCCから罰金を受けたのはなぜですか?
免許上の放送地域はオークランドでしたが、宣伝において意図的に「サンフランシスコのラジオ」であることを強調し、免許地域外のコミュニティを優先してサービスしていると見なされたためです。
「プログレッシブ・トーク」とはどのような内容でしたか?
リベラルまたは左派的な視点から政治や社会問題を論じる形式です。Air Americaなどのネットワーク番組や、地元の政治風刺、環境問題などのテーマを扱っていました。
Bloomberg Radioの放送は現在も聴けますか?
AM 960(KNEW)での放送は2024年9月30日で終了しました。現在はBloombergの公式アプリを通じてコンテンツを利用することが推奨されています。
オークランド・アスレチックスの中継はどうなりますか?
チームがサクラメントやラスベガスへ移転した後も、iHeartMedia傘下のKNEWおよびKSTEを通じて放送が継続される計画となっています。
📸 フォトギャラリー

