科学や技術の分野において、数値の意味を世界共通で正しく理解するためには、物理量と単位の厳格な定義が不可欠です。かつてその中心的な役割を担っていたのがISO 31という国際標準でした。この規格は、物理量の定義や測定単位、それらの相互関係、および表記方法を定めた包括的なガイドラインとして機能していました。
しかし、技術の進歩と標準化の効率化に伴い、ISO 31は現在、より統合的な規格であるISO/IEC 80000へと引き継がれています。本記事では、ISO 31の構成から、後継規格への移行プロセス、そしてこの標準化が科学界に与えた影響について詳しく解説します。
Key Facts
- ISO 31は物理量と単位に関する旧国際標準であり、現在はISO/IEC 80000に置き換えられている。
- 全14パートで構成され、力学、熱、電気、磁気、音響など広範な科学分野をカバーしていた。
- ISO 31とIEC 60027が統合され、SI(国際単位系)と共に用いられるISQ(国際物理量系)として再定義された。
- フランス語の直訳による「massic」や「volumic」といった独自の学術用語を英語圏に導入した側面がある。
ISO 31の構造と後継規格への移行
ISO 31は、物理学のほぼすべての主要領域を網羅するため、14のパートに分かれて詳細に規定されていました。それぞれのパートは、特定の物理現象や科学分野に特化した単位と量の定義を提供していました。
その後、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)の共同作業により、ISO 31およびIEC 60027の内容が統合されました。これにより誕生したのがISO/IEC 80000です。この新しい枠組みでは、SI単位系と組み合わせて使用される物理量や方程式の体系をISQ(International System of Quantities:国際物理量系)と呼ぶことになりました。
| ISO 31 パート | 対象分野 | 後継規格 (ISO/IEC 80000) |
|---|---|---|
| ISO 31-0 | 一般原則 | -1:2009 |
| ISO 31-1 / 31-2 | 空間、時間、周期現象 | -3:2007 |
| ISO 31-3 | 力学 | -4:2006 |
| ISO 31-4 | 熱 | -5 |
| ISO 31-5 | 電気および磁気 | -6 |
| ISO 31-6 | 光および電磁放射 | -7 |
| ISO 31-7 | 音響 | -8:2007 |
| ISO 31-8 | 物理化学および分子物理学 | -9 |
| ISO 31-9 / 31-10 | 原子・核物理学、電離放射線 | -10 |
| ISO 31-11 | 物理科学・技術用数学記号 | ISO 80000-2:2009 |
| ISO 31-12 | 特性数 | -11 |
| ISO 31-13 | 固体物理学 | -12 |
このように、ISO 31の各要素は漏れなくISO/IEC 80000の体系に組み込まれ、より現代的な標準へと進化しました。
言語的な影響と専門用語の導入
ISO 31-0(一般原則)は、単なる数値の定義にとどまらず、英語の科学用語にも影響を与えました。特にフランス語の表現をそのまま英語に当てはめた「借用訳(calques)」による新しい単語が導入され、一部は現在の学術論文でも使用されています。
- massic(質量あたりの):ある量をその質量で割った値(従来のspecificに相当)。
- volumic(体積あたりの):ある量をその体積で割った値(体積密度など)。
- areic(面積あたりの):ある量をその面積で割った値(表面密度など)。
- lineic(長さあたりの):ある量をその長さで割った値(線密度など)。
各国における対応と関連組織
国際標準であるISO 31に対し、各国は独自のガイドラインを策定して対応してきました。例えば、カナダではCAN/CSA-Z234-1-89が、米国ではNIST(国立標準技術研究所)によるSP 811やSP 330、あるいはIEEE/ASTM SI 10などの文書が公開されています。ただし、これらの国内文書はISO 31-0の原則をカバーしていても、ISO 31の全パートが持つ包括的な物理量リストを完全に網羅しているわけではありません。
また、ISO 31の策定には、純粋・応用物理学国際連合(IUPAP)のSUN委員会による文書(IUPAP-25)や、純粋・応用化学国際連合(IUPAC)の用語・命名法・記号に関する委員会などの知見が深く反映されています。特にIUPACの「グリーンブック」は、ISO 31における多くの定義をカバーする重要な資料となっています。
Frequently Asked Questions
ISO 31は現在も有効な規格ですか?
いいえ、ISO 31はすでに廃止(superseded)されており、現在は後継のISO/IEC 80000が適用されています。
ISO/IEC 80000になると何が変わったのですか?
ISO 31とIEC 60027という2つの異なる標準が統合されました。これにより、SI単位系と連携した物理量の体系であるISQ(国際物理量系)として、より一貫性のある定義が提供されるようになりました。
「massic」や「volumic」という言葉は一般的ですか?
これらはISO 31-0で導入されたフランス語由来の表現です。一般的な英語よりも、特定の科学論文や専門的な技術文書において、密度に関連する量を厳密に区別するために使用される傾向があります。
ISO 31の内容を確認したい場合はどうすればよいですか?
ISO 31はISO 1000(SI単位の推奨事項)と共に「ISO Standards Handbook」としてまとめられていたことがあります。現在の最新定義を確認したい場合は、後継のISO/IEC 80000を参照することを強く推奨します。
References
- "ISO 31-0:1992 Quantities and units — Part 0: General principles". International Organization for Standardization. Retrieved 8 May 2021.
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