自転車のタイヤやリムを選ぶ際、表記の複雑さに戸惑ったことはないでしょうか。「26インチ」という表記があっても実際には複数の異なるサイズが存在したり、インチ表記とミリメートル表記が混在していたりと、従来の慣習的な表記法では曖昧さが残っていました。こうした混乱を解消し、世界的に一貫した基準を提供するために策定されたのがISO 5775という国際規格です。
この規格は、もともと欧州タイヤ・リム技術機構(ETRTO)が開発したシステムをベースにしており、現在はISO(国際標準化機構)によって管理されています。日本国内においても、日本産業標準調査会が協力しており、タイヤに関してはJIS D 9112、リムに関してはJIS D 9421という対応する日本産業規格(JIS)が整備されています。

Key Facts
- 目的: 曖昧なインチ表記などを排除し、ミリメートル単位の正確な数値でタイヤとリムの適合性を明確にする。
- 基本指標: リムとタイヤの接点となるビードシート径(BSD)を基準に測定する。
- 構成: タイヤの寸法と名称を定める「パート1」と、リムの要件を定める「パート2」で構成される。
- 表記例: 「32-597」のように、「タイヤ幅-ビードシート径」の形式で表記される。
タイヤの寸法表記と適合基準(ISO 5775-1)
ISO 5775のパート1では、タイヤの名称、サイズ表記、マーキング、およびリムとの適合性について定義しています。特に一般的なクリンチャータイヤ(ストレートサイドまたはクロシェタイプリムに使用)の場合、表記は「公称断面幅-公称リム径」という形式になります。
サイズ表記の読み方
例えば「32-597」という表記がある場合、最初の「32」は空気を入れた状態のタイヤ幅(トレッドを除く)をミリメートルで示しています。後半の「597」は、タイヤをリムに装着した際のビード部分の直径であるビードシート径(BSD)を指します。これにより、外径のわずかな違いに左右されず、物理的に装着可能かどうかが一目で判断できます。
空気圧と設計上の注意点
規格では、推奨空気圧をキロパスカル(kPa)で表記することを定めています。また、用途に応じた最低空気圧の目安として、幅25mm以下の狭いタイヤは300kPa、一般的な道路走行用は200kPa、オフロード用は150kPaが推奨されています。
リム幅の選定については、タイヤ幅の約55%〜65%が適切とされています(30mm未満のタイヤは約65%、それ以上のタイヤは約55%)。また、タイヤの断面高さは通常、断面幅とほぼ同一ですが、幅28mm未満のタイヤについては、高さの算出に2.5mmを加算する必要があります。
タイヤ幅と推奨リム幅の対応表
| 公称断面幅 (mm) | 設計リム幅 (mm) | 許容リム幅:最小 (mm) | 許容リム幅:最大 (mm) |
|---|---|---|---|
| 18 | 19 | 15 | 13 |
| 21 | 15 | 13 | 17 |
| 25 | 27 | 19 | 13 |
| 28 | 19 | 15 | 23 |
| 35 | 46 | 23 | 17 |
| 47 | 57 | 25 | 17 |
| 58 | 65 | 30 | 21 |
| 72 | 83 | 45 | 31 |
リムの規格と種類(ISO 5775-2)
パート2では、リムの形状と寸法について定義しています。リムは大きく分けて以下の5つのサブタイプに分類されます。
- ストレートサイド (SS): 直線的な側壁を持つタイプ。
- チューブレス・ストレートサイド (TSS): SSのチューブレス対応版。
- クロシェ (C): 外周付近に内側へ曲がったフック状の構造を持ち、タイヤを保持するタイプ。現代の自転車で最も一般的です。
- チューブレス・クロシェ: クロシェタイプのチューブレス対応版。
- フックドビード (HB): ビードシートを持たず、フックのみでタイヤを径方向に保持するタイプ。現在は稀です。
リムの表記方法
リムのサイズは「公称リム径 × 公称幅」で表記され、単位はミリメートルです。タイプコード(SSやHBなど)を前置し、クロシェタイプの場合は幅の後に「C」を付け加えます(例:SS 400×20、620×13C)。
ストレートサイドおよびクロシェタイプでは、直径の基準としてビードシート径(BSD)を用いますが、フックドビード(HB)リムの場合は、ビードシートが存在しないため、リムの外径(OD)を基準として表記します。
旧表記からの移行と互換性
かつてのインチ表記は、タイヤの外径に基づいていたため、同じ「28インチ」でも実際には異なるビードシート径を持つ製品が存在していました。例えば、27インチホイールの方が、一部の米国式28インチホイールよりも直径が大きいという逆転現象が起きていました。
現在のISO 5775表記に移行することで、こうした混乱は解消されます。古い表記の製品を使用している場合は、変換表を用いて正確なBSDを確認し、ISO規格の数値(例:700C → 622mm)に照らし合わせることで、正しい互換性を判断することが可能です。
Frequently Asked Questions
ISO 5775表記の「32-622」はどう読めばいいですか?
これは、タイヤの公称断面幅が32mmで、リムのビードシート径(BSD)が622mmであることを意味します。この数値が一致していれば、物理的にそのリムに装着可能です。
なぜインチ表記ではなくミリメートル表記が推奨されるのですか?
インチ表記は外径に基づいているため、タイヤの太さ(断面高さ)によって実際のリム径が異なる場合があり、誤った選択をするリスクがあるためです。ミリメートルによるBSD表記であれば、リムとタイヤの接点という絶対的な基準で判断できます。
クロシェリムとフックドビードリムの違いは何ですか?
どちらもタイヤを保持するフック構造を持ちますが、クロシェリムには明確な「ビードシート(タイヤが座る面)」があるのに対し、フックドビードリムにはそれがなく、フックのみでタイヤを固定します。そのため、直径の測定基準も異なります。
推奨空気圧のkPaをpsiに換算するにはどうすればいいですか?
ISO 5775ではkPa(キロパスカル)が標準ですが、一般的に1 psiは約6.89 kPaです。kPaの数値を6.89で割ることで、おおよそのpsi値を算出できます。
JIS規格とISO 5775は異なるものですか?
いいえ、日本のJIS D 9112(タイヤ)およびJIS D 9421(リム)は、ISO 5775と協力・整合して策定されており、実質的に同じ基準に基づいています。