音楽業界において、時代ごとにその役割を変えながら生き残ってきた稀有なレーベルがあります。それがLondon Records(ロンドン・レコード)です。1947年の設立以来、英国を拠点としながら北米やラテンアメリカ市場への架け橋となり、クラシックからロック、ダンスミュージックまで幅広いジャンルを世に送り出してきました。
もともとはDecca Records(デッカ・レコード)の戦略的な展開から生まれたこのレーベルは、権利関係の複雑な変遷を経て、現在はBecause Musicの傘下でその伝統を継承しています。本記事では、音響技術への挑戦や数々のスターアーティストの輩出など、London Recordsが歩んだ波乱万丈の歴史を紐解きます。
Key Facts
- 設立:1947年、エドワード・ルイスによって創設。
- 役割:当初は英国Deccaの作品を北米で展開するためのブランドとして機能。
- 音響革新:「Phase 4」や「FFRR」など、没入感のある高音質録音を追求。
- 代表的アーティスト:ザ・ローリング・ストーンズ(初期)、ニュー・オーダー、バナナラマなど。
- 現在の所有:Because Musicが商標ライセンスを保有し運営。
黎明期から黄金時代へ:Deccaとの密接な関係
London Recordsの誕生は、英国と米国のDecca Recordsの間で発生した所有権の分離という特殊な事情によるものでした。当時、英国Deccaは米国で「Decca」の名を使用できなかったため、北米市場向けに「London」というブランドを立ち上げました。これにより、英国の優れた録音作品を米国やカナダ、ラテンアメリカへ届けることが可能となりました。
特にクラシック音楽の分野では、ジョージ・ソルティやルチアーノ・パヴァロッティといった巨匠たちの作品を、当時の最先端であるステレオサウンドでリリースし、高い評価を得ました。

一方で、英国国内では逆のパターンが展開されました。英国Deccaが米国のレーベル(AtlanticやMotownなど)からライセンスを受けた作品をリリースする際に「London」の名が使用されたのです。これにより、米国のリズム&ブルースやソウルミュージックが英国市場に浸透する重要な役割を果たしました。

音響技術への飽くなき追求
1960年代から70年代にかけて、同社は音質向上に心血を注ぎました。特に注目すべきはPhase 4 Stereoシリーズです。これは単なるステレオ録音ではなく、特殊なスコアリング技術を用いることで、当時の一般的な手法(何度も重ね録りするオーバーダビング)で発生しがちなテープヒスノイズを排除し、一回の録音で奥行きのある空間的なサウンドを実現した革新的な試みでした。
また、「FFRR(Full Frequency Range Recording)」という呼称とともに、広帯域な周波数再生を追求し、オーディオファイル(音質重視のリスナー)から絶大な信頼を勝ち取りました。
ポップスとロックの時代:1960年代から90年代
米国市場において、London Recordsの名を最も有名にしたのは、1971年以前のザ・ローリング・ストーンズの作品群です。また、テキサス出身のZZ Topの初期作品も同レーベルからリリースされていました。

1980年代に入ると、親会社がPolyGram(ポリグラム)に買収されたことで、より独立した運営体制へと移行します。この時期、ダンスミュージックに特化したFFRR(レーベルロゴの名称から引用)などのサブレーベルを立ち上げ、クラブカルチャーの台頭に呼応しました。
90年代には、マッドチェスター・シーンのインディーバンドであるThe Highを契約しましたが、チャート操作の疑いでBPI(英国レコード産業協会)から罰金を科せられるという騒動もありました。その後、運営権はWarner Music Groupへと移り、ニュー・オーダーやハッピー・マンデイズといった象徴的なアーティストを擁する「London Records 90」として展開されました。
21世紀の再始動と現在の体制
2000年代以降、商標権は再びUniversal Music Group(UMG)に戻り、2011年にはニック・ラファエルらの指揮下でレーベルが再始動しました。その後、2017年にBecause MusicがWarner Records 90(後のLondon Music Stream、現在のLondon Recordings)を買収し、多くのカタログ権利を継承しました。
現在はBecause Music Groupの一部として「London Records」の名を冠し、ブロンシ・ビートやバナナラマ、オービタルといった過去のヒットメーカーの作品を再リリースしながら、そのブランド価値を維持しています。
London Recordsの概要まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 設立年 | 1947年 |
| 創設者 | エドワード・ルイス |
| 主要ジャンル | クラシック、ロック、ポップス、ダンスミュージック |
| 革新的技術 | Phase 4 Stereo, FFRR |
| 現在の運営 | Because Music (UMGのVirgin Musicが流通を担当) |
Frequently Asked Questions
なぜ「London」という名前が使われたのですか?
もともと英国Decca Recordsが、米国で「Decca」という商標を使用できなかったため、北米市場向けの別ブランドとして「London」を立ち上げたことが始まりです。
「Phase 4」録音とは具体的に何がすごかったのですか?
当時の一般的な多重録音(オーバーダビング)では、テープを何度もコピーするためノイズが増えていました。Phase 4は緻密な編曲と録音手法により、一度の録音で豊かな空間表現を実現し、極めてクリアな音質を維持した点にあります。
現在、過去の作品はどこが管理していますか?
1980年以前のカタログの多くはUniversal Music Groupが、1980年代以降の多くのカタログはBecause Musicが管理しています。一部のアーティスト(ニュー・オーダーやオール・セインツなど)はWarner Music Groupの管理下にあります。
FFRRとは何の略ですか?
「Full Frequency Range Recording」の略で、人間が聞き取れる全周波数帯域を忠実に再現することを目指した高音質録音規格のことです。後に同名のダンスミュージック・レーベルとしても展開されました。
どのようなアーティストが所属していましたか?
時代により多岐にわたりますが、初期のローリング・ストーンズやZZ Topから、後年のニュー・オーダー、バナナラマ、ハッピー・マンデイズ、さらにはクラシックのパヴァロッティまで、非常に幅広いジャンルの才能を輩出しました。
References
- John Broven, Record Makers and Breakers: Voices of the Independent Rock 'n' Roll Pioneers, University of Illinois Press, 2009, pp.401-411
- Cat People, Bill Hayward, introduction by Rogers E. M. Whitaker. New York: Dolphin/Doubleday, 1978, p. 132
- "Into the limelight by any means necessary". The Independent. 23 October 2011.
- "What's cookin'?". The Independent. 23 October 2011.
- "The numbers game is up". The Independent. 23 October 2011.
- "HIGH | full Official Chart History". Officialcharts.com.
- "Polygram Holding, Inc.; Decca Music Group Limited; UMG Recordings, Inc.; and Universal Music & Video Distribution Corp". Federal Trade Commission. 31 July 2001. Retrieved 18 April 2007.
- "Case details for Community Trade Mark E3038437". Intellectual Property Office. Archived from the original on 30 September 2011. Retrieved 30 September 2008.
- "New Order | full Official Chart History". Officialcharts.com.
- "Raphael to relaunch London Records for Universal". CMU. 3CM Unlimited. 31 May 2011. Retrieved 13 August 2012.
📸 フォトギャラリー


