火山の活動状態を正確に把握し、噴火の兆候をいち早く察知するためには、放出されるガスの成分分析が不可欠です。そこで活用されているのがMulti-GAS(多成分ガス分析システム)です。この装置は、火山から放出される複数のガス成分をリアルタイムかつ高精度に測定できるポータブルな分析パッケージであり、世界中の火山観測において重要な役割を果たしています。
専門的な知識を持つ研究者だけでなく、運用が比較的シンプルであるため、政府機関や現場の観測員によっても幅広く利用されています。これにより、迅速な災害軽減策の策定や、火山内部で起こっている物理的・化学的プロセスの深い理解が可能となりました。

Key Facts
- リアルタイム測定:CO2、SO2、H2Sなどの主要ガスを同時に高分解能で計測可能。
- 高い汎用性:ポータブルな設計で、単発の調査から常設観測ステーションまで柔軟に対応。
- 噴火予測への寄与:ガス組成比(特にCO2/SO2比)の変化からマグマの上昇を検知できる。
- 世界的な導入実績:エトナ山(イタリア)や三宅島・浅間山(日本)など、世界各地の火山で運用。
Multi-GASの仕組みと構成
Multi-GASは、過酷な屋外環境に耐えうる耐候性ボックスに、複数のセンサーを統合したシステムです。基本構成として、二酸化炭素(CO2)を測定する赤外線分光計、二酸化硫黄(SO2)と硫化水素(H2S)を測定する2つの電気化学センサー、そして環境条件を把握するための温度・圧力・湿度センサーが搭載されています。また、必要に応じて水素(H2)や塩化水素(HCl)用のセンサーを追加することも可能です。
測定の手順はシンプルです。シリコンチューブを用いて、観測したい地点からガスを一定の流量でシステム内に吸引します。内部のデータロガーがセンサーから出力される電圧値を自動的に記録し、それをガス濃度へと変換します。

運用形態:短期調査と長期モニタリング
このシステムは、目的に応じて2つの運用方法が使い分けられます。一つはリチウム電池で駆動させ、観測者が地点を移動しながら測定する短期的なサーベイです。もう一つは、太陽光パネルやバッテリーを組み合わせ、無線通信(3Gや衛星通信)を介して遠隔地にデータを送信する常設ステーションとしての運用です。
ただし、現場での操作は容易である一方、得られたデータの後処理には注意が必要です。センサーの経時的なドリフト(値のズレ)や、周囲の気象条件による影響を補正する複雑な解析プロセスが求められます。
ガス組成から読み解く火山の内部状態
火山ガスの成分比率を分析することで、地下のマグマの挙動を推測できます。特に注目されるのがCO2/SO2比です。マグマが地表に向かって上昇すると、圧力が下がるため、溶解度の低いCO2が先に分離して放出されます。その結果、この比率が上昇するため、噴火前の前兆現象として捉えることができます。
例えば、イタリアのエトナ山での2年間にわたる調査では、静穏期にはこの比率が1未満でしたが、噴火直前には最大25まで上昇したことが確認されています。また、H2S/SO2比の変化を追うことで、マグマ由来か熱水由来かの入力を判別でき、今後の活動予測に役立てられます。さらに、CO2/H2S比は、その地点のガス組成の特徴を定義し、マグマガスが地殻内でどのように洗浄(スクラビング)されたかを分析する指標となります。

世界各地での活用事例
Multi-GASは、学術研究から公共安全の確保まで、多様な目的で世界中の火山に導入されています。
| 地域・火山名 | 主な観測内容・成果 |
|---|---|
| エトナ山(イタリア) | CO2/SO2比の上昇とマグマ上昇・噴火の相関を実証。 |
| クリスヴィーク(アイスランド) | 地震活動の活発化に伴い、地殻の割れ目からガス放出量が増加することを確認。 |
| イエローストーン(アメリカ) | カルデラのダイナミクスを調査。ガス変動が環境・気象変動と連動していることを解明。 |
| ニイラゴンゴ(コンゴ民主共和国) | 溶岩湖の水位上昇とCO2/SO2比の上昇に相関があることを確認。 |
| 日本(三宅島・浅間山など) | 常設ステーションによる継続的なガス組成モニタリングを実施。 |
また、「Deep Earth Carbon Degassing Project (DECADE)」のような国際的なプロジェクトを通じて、チリのビジャリカ山やコスタリカのトゥリアルバ山など、さらなる観測網の拡大が進められています。
Frequently Asked Questions
Multi-GASで測定できるガスは何ですか?
標準的に二酸化炭素(CO2)、二酸化硫黄(SO2)、硫化水素(H2S)を測定します。また、温度、圧力、湿度も同時に計測します。オプションとして水素(H2)や塩化水素(HCl)のセンサーを追加することも可能です。
なぜCO2/SO2比が噴火予測に役立つのですか?
マグマが上昇すると、まず溶解度の低い二酸化炭素(CO2)が優先的に放出されるため、二酸化硫黄(SO2)に対する比率が高まります。この比率の急上昇を検知することで、地下でのマグマの上昇を早期に察知できるためです。
専門家でなくても操作できるのでしょうか?
はい、装置の設置や現場での運用、データの一次的な収集はシンプルに設計されており、非専門家でも実施可能です。ただし、センサーの誤差補正などの高度なデータ解析には専門的な知識が必要となります。
常設ステーションではどのようにデータを回収していますか?
常設ステーションでは、太陽光パネルで電力を賄い、3Gなどの携帯電話回線や衛星通信端末を使用して、遠隔地のサーバーへリアルタイムにデータを送信する仕組みが採用されています。
どのような環境で利用されていますか?
耐候性のあるボックスに封入されているため、火口付近の過酷な環境や、遠隔地の地熱地帯など、さまざまな屋外環境でインサイチュ(現場)測定に利用されています。
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